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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)133号 判決 1963年11月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人下山四郎の上告理由第一について。

論旨は、仮処分の執行目的物に対する占有を侵害された第三者は常に第三者異議の訴によりその執行を排除し得るものであり、占有権を原因とする第三者異議の訴は占有の訴であるから、裁判所は本権にはかかわりなく占有の存否のみを審判の対象とすべきものであり、その占有存否の事実は仮処分当時の事実に基づいて判断すべきものであるにかかわらず、これに反する判断をした原判決は法令に違反し、判例に違背すると主張する。

しかしながら、民訴法五四九条の規定による第三者異議の訴は、第三者が異議の理由として執行目的物に対する占有権を主張する場合でも、占有の訴ではなく、執行排除を目的とする訴訟法上の訴であり、執行目的物に対する占有権を有する第三者は、つねに、同条にいう「引渡を妨ぐる権利」を有するのではなく、その第三者が右権利を有するといいうるためには、執行行為によつて占有権が侵害されることのほか、執行債権者に対しかかる侵害を受忍すべき理由のないことを要し、右権利存否の判断は、通常の訴訟における場合と同様、口頭弁論終結当時の権利状態に基づいて判定すべきものと解するのが相当である。そして、原判決の確定した事実によれば、上告人星野五三郎は、本件建物に対する占有権を有するとしても、既に本件仮処分の本案訴訟において、何等の権原を有しないものとして、本件被上告人に対し本件建物を収去してその敷地を明渡すべき旨の確定判決を受けているのであるから、もはや被上告人に対し右占有権を原因とする第三者異議を主張する権利を有せざるに至つたものであり、その権利は民訴法五四九条にいわゆる「引渡を妨ぐる権利」に該当しないものといわなければならない。しからば、これと同趣旨の判断を下した原判決には所論の違法はなく、所論引用の判例は、本件には適切ではない。

論旨は、また、建物の収去と建物からの退去は別異の観念であるから、本案裁判の建物収去命令による執行の着手のあるまでは、正権原の有無を問わず、上告人らの本件建物に対する占有は保護さるべきであるにかかわらず、原判決はこれと異なる判断をした違法があると主張する。しかしながら、本案裁判において建物の収去並びにその敷地の明渡を命ぜられた者は、その前提として当然、当該建物の占有をも否定されたものであるから、原判決が、敷地の占有という点においては、建物所有による敷地占有も、建物占有による敷地占有も同様であり、本件建物の収去並びにその敷地の明渡を命じた本案裁判の判決は、その建物より退去してその敷地を明渡すべき趣旨をも包含するものである旨判示したことは相当である。

結局、所論各点に関する原判示はすべて正当であり、所論は、右と異つた見解に立つて原判決を非難するものにすぎないから、採用できない。

同第二について。

論旨は、原判決が、本件仮処分執行当時、上告人星野が本件建物を占有していたか否かの争点を判断しなかつたことに判断遺脱などの違法があると主張する。なるほど、原判決は所論の点について判示していないけれども、前記上告理由第一について説示したとおり、上告人にはすでに本訴主張の権利なきことを判断した以上、右所論の点に関する判断は原判決の結論に影響のない事柄に属するから、所論は採用できない。

同第三について。

しかし、以上説示のとおり、本案裁判の結果により本訴請求を容認しなかつた原判決の判断が正当である以上、右判断には所論違法のかどは認められず、所論違憲の主張は前提を欠くことが明らかであるから、所論はすべて採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤朔郎)

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